技術士の技事録

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ST H26秋 午後Ⅰ 問1

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銀行システムの再構築に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

 A社は,企業再生ファンド会社である。A社では,破綻企業の株式,経営再建企業の株式を取得して企業を買収する。その後,買収した企業を再建して,企業価値を向上させた後,株式の転売,再上場。他社への売却などによって利益を得ている。
 B銀行は,100以上の支店を有する地方銀行(以下,地銀という)である。B銀行は,融資先の破綻などによって不良債権が増加して財務状況が悪化し,経営再建中である。
 A社は,5年程度でB銀行を再建した後,他の銀行に売却することによって大きな差益が得られると考え,B銀行の株式取得を検討することにした。A社では,投資に対する収益を確実なものとするために,株式取得に先立って次の二つの事業戦略を立てた。

  1. B銀行の企業価値を高めること
     事業規模を維持しつつ,企業価値を高めるには,ヒト,モノ,カネ,情報といった経営資源を効率よく利用することが重要であり,人員削減,組織改編,店舗統合,不良債権処理などを進めるとともに,情報システムの見直しが必要である。
  2. B銀行の経営再建後の売却可能性を高めておくこと
     経営再建後の売却先候補が多くなるほど,高額での売却が期待できるので,初期投資額が多少増加しても,売却可能先を広げ,早期に企業価値向上への対応を完了させることを優先する。

〔情報システムの現状〕
 B銀行の主要な情報システムは,勘定系システム,営業店系システム,情報系システムである。
 勘定系システムは,預金,融資,為替を取り扱う。
 情報系システムは,勘定系システムのデータを集計,分析し,本部・支店でのリスク管理,融資先管理,顧客分析を行う。
 勘定系システム及び情報系システムはともに,大型汎用機を利用しており,運用費用,及び機能追加などのための情報システム改修費用が高額なので,改善が必要であるとA社は考えている。また,融資先管理機能が不十分であることは,B銀行の経営不振を招く一因になった。
 営業店系システムは,支店内の端末,現金自動預払機(ATM)及び関連機器(以下,これらの機器を総称して支店内機器という),並びに本支店ネットワークから構成されており,支店内機器の管理,本支店間の情報通信の管理を行う。
 営業店系システムの支店内機器,ソフトウェアの中には陳腐化したり保守期間が終了したりしているものがあるので再構築二ーズはあるが,その優先度は低い。

〔情報システムの見直しに関して考慮すべき条件〕
 B銀行の財務状況をできる限り早期に改善するために,情報システムの運用費用は短期間で低減させるとともに,再構築費用も短期間で回収する必要がある。そのためには,B銀行の情報システムの見直し方針を策定する必要がある。
 情報システムの再構築に際しては,短期間で稼働させる必要がある。そこで,全て自前で新しく構築し直す方法は,情報システムの見直し方針の選択肢から除外して考えることにした。
 B銀行の個人顧客には高齢者が多く,法人顧客には古くからの取引先が多いので,商品・サービスを大幅に変更してしまうと,解約が増加するおそれがある。B銀行の財務状況をこれ以上悪化させないために,預金・融資の基盤である顧客の維持は必要不可欠である。
 また,情報システムの再構築後においても,業績が悪い支店は,1〜2年のうちに近隣の業績が良い支店に店舗統合していく予定である。支店数を1割程度削減して人員削減や,余剰となる支店内機器を含めて廃止する支店の資産処分によって,財務状況の改善を図る。

〔情報システムの見直しの選択肢〕
 情報システムの見直し方針は,勘定系システム,営業店系システム,情報系システムに対し,それぞれ次の三つの方針から選択する。

  • 現行システムの再利用
  • 共同利用システムの利用
  • ソフトウェアパッケージの利用
  1. 現行システムの再利用:現行システムの一部を改修し,できるだけ再利用すること
     機器,業務手続の大幅な変更が不要であり,再利用できる部分が多いほど,開発費用は安くなる。移行費用もほとんど不要であるが,運用費用は現行と大差ない。
  2. 共同利用システムの利用:既存の共同利用システムに参加すること
     共同利用システムは,情報システム事業者と地銀が勘定系システムを中心に共同開発し,複数の地銀で共同利用する情報システムであり,既に幾つか存在する。同じ共同利用システムに参加する地銀間では,業務の親和性は高い。しかし,一方で,それぞれの共同利用システム間には共通性はないので,一つの共同利用システムから他の共同利用システムへ移行しようとすると,多額の費用が掛かるだけでなく,機能・サービスの見直しも必要となることがある。実際,共同利用システム間で参加銀行の移行は発生していない。ソフトウェアにカスタマイズが必要な場合は,共同利用システム参加銀行の間で協調して実施する必要があり,各銀行個別に独自のカスタマイズはしにくい。共同利用システムを利用した場合。移行費用は掛かるものの,業務,商品・サービスが適合すれば安価に導入でき,運用費用も安価になる。
  3. ソフトウェアパッケージの利用:ソフトウェアパッケージを利用した情報システムに再構築すること
    ソフトウェアパッケージの費用は共同利用システムの導入費用よりも高額になる上,カスタマイズも必要になることが多く,その分費用も掛かる。運用費用も導入費用に応じて高額になる。ただし,カスタマイズは比較的自由にできるので,各銀行の実情に合わせ,商品・サービスの充実,業務の効率向上などが期待できる。

 A社は,ソフトウェアパッケージの利用については,更に,国産ソフトウェアパッケージと海外製ソフトウェアパッケージの二つの案を考えることにした。海外製ソフトウェアパッケージには,預金通帳の取扱い,口座からの自動引落しなどの国内特有のサービスを提供する機能がなく,カスタマイズは高額になるので。実現性は低い。ただし,海外製ソフトウェアパッケージは,海外の銀行で広く利用されているので販売数が多く,国産ソフトウェアパッケージに比べ,導入費用,運用費用ともかなり安いという利点がある。移行費用については,海外製と国産で差異はない。

〔各情報システムの見直し方針〕
 A社では,B銀行の主要な情報システムについて,それぞれ見直し方針を次のとおり決定した。

  • 勘定系システムは,“国産ソフトウェアパッケージの利用”を採用する。
  • 営業店系システムは,“現行システムの再利用”を採用する。
  • 情報系システムは,勘定系システムとの関連性も強いことから,“国産ソフトウェアパッケージの利用”を採用する。

 A社では,これらの方針に基づき,国産ソフトウェアパッケージの事業者に提案依頼を行い,勘定系システム及び情報系システムについてC社のソフトウェアパッケージの採用を決定した。現行システム構築事業者は,勘定系システム及び情報系システムのソフトウェアパッケージを提供していないので,提案依頼の対象外とした。
 A社はC社に勘定系システム及び情報系システムの構築計画の策定を依頼するとともに,現行システム構築事業者に費用見積りなどを依頼して,主要な情報システムの再構築・導入の全体計画を策定することにした。

 

設問

設問1

 勘定系システムの見直し方針について,(1),(2)に答えよ。

(1)“共同利用システムの利用”を採用した場合,A社の事業戦略の実現を阻害する事項を,40字以内で具体的に述べよ。

(2)“海外製ソフトウェアパッケージの利用”を採用した場合,A社の事業戦略の実現を阻害する事項について,阻害する要因も含めて40字以内で具体的に述べよ。

 

 

解答例

(1)経営再建後のB銀行売却先が同じ共同利用システム参加銀行間に限定される。

(2)・国内特有のサービスを提供する機能がないので,顧客を維持できない。
・カスタマイズが高額になり,再構築費用の回収に時間が掛かる。

解説

(1)

(2)

 

設問2

 営業店系システムの見直し方針として“現行システムの再利用”を採用した理由には,既存支店網が多く,支店内機器・ソフトウェアを更新するにはコストが掛かること,及び再構築の優先度が低いことが挙げられる。その他に考えられる理由を,40字以内で述べよ。

 

解答例

店舗統合を予定しているので,新規導入した支店内機器が無駄になるから

解説

 

設問3

 情報系システムの再構築に当たって見直すべき業務機能を答えよ。

 

解答例

 融資先管理機能

解説

 

設問4

 主要な情報システムの再構築・導入の全体計画策定に当たって,現行システム構築事業者に依頼すべき見積り事項を二つ挙げ,それぞれ25字以内で述べよ。

 

解答例

・各情報システムのデータ移行に関する費用
・営業店系システムの対応費用

解説

 

IPA公開情報

出題趣旨

 出題趣旨ITストラテジストには,企業の経営戦略の実現を支援するためのシステムソリューションを検討し,その適用方針を策定する能力が求められる。
 本問では,金融機関の経営再建を題材に,組織内部の視点にとどまらず組織の外からの視点を加味して検討対象を設定し,抜本的な改革まで含めたシステムソリューションの適用と,その結果に応じた事業戦略への影響を検討する能力を評価する。具体的には,銀行主要システムの見直し方針の決定理由,情報システム再構築の要件,情報システム再構築計画策定のために必要な開発事業者への協力要請項目について問う。

採点講評

 問1では,銀行システム再構築におけるシステムソリューションの選択について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
 設問1では,事業戦略の実現を阻害する事項を問うた。(1)では,経営再建後の売却可能性に関する解答を期待したが,“システム再構築でのカスタマイズ費用が掛かる”のような売却可能性の観点が含まれない解答が散見された。(2)では,事業戦略の実現をどのように阻害するのかまで踏み込まず,カスタマイズの必要性にとどまった解答が見られた。
 設問2では,設問に記載された要素の他に考えられる理由を問うたが,コストや優先度といった設問の記載要素と同趣旨の解答が散見された。
 設問4では,現行システム構築事業者に依頼する見積り事項を問うたが,“現行システムの再利用”を採用した営業店系システムに関してだけの解答が見られた。現在の各情報システムからのデータ移行に対しては現行システム構築事業者の協力が必要であることにも気付いてほしい。
 ITストラテジストは,経営戦略に基づいた情報戦略や情報化計画の策定・提案をする能力を高めてほしい。