技術士の技事録

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ST H27秋 午後Ⅰ 問1

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建設業におけるグローバルな環境での業務遂行体制の確立に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 A社は,工場,研究施設及び大規模なプラントの建設を主とする建設業の会社である。近年の国内市場の縮小に伴い,海外市場への事業拡大が課題となっており,グローバルな環境での業務遂行体制(以下,グローバル体制という)の確立が中期経営計画の柱となっている。
 A社ではこれまで,経済の発展が見込まれる海外地域に子会社(以下,海外子会社という)を設立し,海外子会社の自助努力によって海外市場を開拓してきた。海外子会社は独自の業務遂行体制や業務処理手法をもち,情報も個別に管理している。
 最近では,コーポレートガバナンスの観点から,A社及び各海外子会社を含めたグループ全体の経営状況や業務の遂行状況を,本社で迅速かつ正確に把握し,リスクに対して事前に対応することが求められている。
 A社の情報企画部は,中期経営計画を受けて,A社の全体システム化計画を策定している。情報システムの整備は,これまで,戦略層,業務層,情報基盤層に分けて計画し,各層への予算配分は特定の層に偏らないようにバランスを保つことを基本ルールとしてきた。

〔業務上の課題〕
 情報企画部は,グローバル体制を確立する上で,現行業務には次のような課題があると考えている。

  1. 海外工事の損益予想の仕組みづくり
     A社では,海外工事の場合,1件当たりの工事金額が大きいので,個別工事の損益が,決算予想に影響する。個別工事の損益は,現在の原価の実績,及び今後の原価の予想によって変動する。これらの点から,本社,海外子会社及び建設現場が関わる設計,調達,工事の状況を全体的に把握し,様々な情報から,海外工事の損益予想を正確に行う必要があり,そのための仕組みづくりが課題となっている。
  2. 海外子会社の状況把握
     A社では,過去に,海外子会社が独自に受注した工事で思わぬ損失を被ったことが決算直前に判明し,連結決算に大きな影響を与えたことから,外部へ公表する決算の期末予想を修正することになったケースがあった。このケースを教訓に,A社の経営者は,投資家の信頼を高め,また経営の基盤を安定させるためにも,信頼性が高い期末損益予想を把握したいと考えている。
  3. 工事管理情報を正確に集約する仕組みづくり
     A社では,これまで,個別工事の管理資料を四半期ごとに集約して,部門ごと及び全社の会計報告資料を作成してきたが,個別工事の管理資料が必ずしも正確に集約されているわけではなく,結果として,期末に原価予想がずれることがあった。この問題を解消するために,個別工事の進歩やコストの管理情報が会計報告資料に直接結び付くよう,工事管理情報を正確に集約する仕組みが必要となっている。
  4. 業務遂行形態と識別コード
     大規模な海外工事の遂行に当たっては,ライバル企業とジョイントベンチャ(以下,JVという)を組み,共同で受注することが多い。この場合,業務遂行時には顧客やJVの社員がA社内に常駐し,同じ作業場所で作業する形態をとる必要がありJVの社員にもA社の識別コードを設定している。その結果,JVの社員にもA社の社員と同等の通信ネットワーク網へのアクセス権限が設定されており,情報セキュリティの観点からの見直しが求められている。

〔海外子会社の課題〕

  1. システム運用コストの増大
     海外子会社は,情報システムなどの管理業務に掛けられる予算が少ない。会計システムも地元の業者に委託して個々に導入しているので,ささいな機能変更でもそのたびにコストが掛かり,海外子会社の運用コスト増加の要因となっている。
  2. 情報通信環境整備之情報活用
     各国,各地域の通信環境の整備状況が異なり,情報通信基盤は統一されていない。海外子会社からは,業務遂行時に本社の情報を参照できないので,業務が非効率になっていたり,業務手順が本社の業務規程から外れていたりするなどの問題点を解消してほしいとの要求が本社に寄せられている。
  3. 要員識別コードの二重管理
     海外子会社で採用されるエンジニアは,各海外子会社の個別の識別コードで管理されているが,本社に派遣された場合は本社の識別コードで管理される。その結果,一人で複数の識別コードをもつことになり,グループ全体の要員を把握する上で障害となっている。

〔本社システム部の課題〕

  1. システム開発費用の負担方法
     本社システム部が管理する予算の7割は運用のための固定的コストであり,新規開発に向けることができる予算は3割にとどまっている。本社システム部としては,新規開発予算を確保することが困難になっており,システム開発費用を受益者に負担してもらう仕組みを制度化した。グローバル体制確立のためのシステム開発費用も,受益者となる海外子会社に,利用度に応じて公平に負担してもらう必要があると考えている。しかし,海外子会社の状況から,システム開発費用の負担を迫ると,導入の抵抗勢力になったり,導入自体を拒否されたりするおそれがある。
  2. 運用要員への負荷
     本社システム部の運用コストの大部分が,サーバなどのハードウェアの運用コストで占められている。運用要員への負荷が高く,残業も多い。本社システム部は,コストセンタの位置付けにあり,要員の補充は難しく,海外子会社からのサポート依頼に対して対応しきれていない。
  3. サーバ台数の増加
     運用要員への負荷が高くなっている大きな要因は,個別システムのための開発・検証用のサーバが見直されることなく運用されているので,数百台規模のサーバ群となっており,その維持・運用・管理に多くの時間を取られている点にある。個々のサーバについて用途や利用状況を見直し,運用負荷を低減するための対策が必要となっている。

〔全体システム化計画〕
 これらの課題に対する検討を踏まえて,情報企画部は,グローバル体制確立のための全体システム化計画について,戦略層,業務層,情報基盤層のアクションプランを表1〜3のように策定した。

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設問

設問1

 戦略層のアクションプランについて,(1),(2)に答えよ。

(1)グローバル会計システムの導入が海外子会社に円滑に受け入れられるようにするために,海外子会社の状況を踏まえ,本社システム部が考慮すべきことを,30字以内で述べよ。

(2)グローバル会計システムの導入の前提として,本社システム部が海外子会社の運用をサポートできるようにするために実施すべきハードウェア面,及び要員面の対策を,それぞれ30字以内で述べよ。

 

解答例

(1)海外子会社のコスト負担を軽減すること

(2)ハードウェア面:サーバの用途や利用状況を見直し,サーバ台数を削減する。
要員面:運用の負荷を軽減しサポート可能な要員の割合を増やす。

解説

(1)

(2)

 

設問2

 業務層のアクションプランについて,(1),(2)に答えよ。

(1)新工事管理システムの開発で,進歩やコストの管理情報を会計報告資料に直接結び付ける狙いを,40字以内で述べよ。

(2)グローバル要員管理システムの開発の前提として,見直すべきことを,25字以内で述べよ。

 

解答例

(1)個別工事の管理情報を正確に集約し,期末原価予想を正確に行うこと

(2)識別コード体系を見直しグループ全体で一元化する。

解説

(1)

(2)

 

設問3

 情報基盤層のアクションプランについて,(1),(2)に答えよ。

(1)通信ネットワーク環境の構築に際して,あらかじめ情報セキュリティに関して講じるべき対策を,30字以内で述べよ。

(2)グローバル情報連携基盤の設計・構築の際に,海外子会社に提供すべき機能を,30字以内で述べよ。

 

解答例

(1)資格,権限,役割ごとに情報へのアクセス権限を明確にする。

(2)海外子会社から本社の情報を参照できる機能

解説

(1)

(2)

IPA公開情報

出題趣旨

 出題趣旨ITストラテジストには,企業の経営計画を実現するための全体システム化計画に則して,個別システム化計画に展開する能力が求められる。
 本問では,建設業におけるグローバルな環境での業務遂行体制の確立を題材として,個別システム化計画の策定能力と具体的な実践力を評価する。具体的には,1全体システム化計画から個別システム化計画への展開力,2計画実現に向けたステークホルダに対するマネジメント能力,3情報セキュリティ対策や運用業務改善案などの具体的対策の実践力を問う。

採点講評

 問1では,建設業におけるグローバルな環境での業務遂行体制の確立について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
 設問1(1)では,海外子会社は情報システムなどの管理業務に掛けられる予算は少ないという状況を把握し,抵抗勢力にならないために考慮すべきことを解答してほしかった。しかし,単に“説明する”という解答が多かった。相手の状況を理解して,アクションプランが円滑に受け入れられるようにするために考慮しておくことの重要性を理解してほしい。
 設問1(2)の要員面の対策では,“要員を増やす”という解答が多かった。本社システム部がコストセンタであり,要員の補充が難しいという状況の中で,サーバの運用負荷を低減してサポートにまわす時間を確保する対策が求められていることを理解してほしい。。
 ITストラテジストは,ITを活用できる業務遂行体制の確立のための提案能力を高めてほしい。