技術士の技事録

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ST H28秋 午後Ⅰ 問3

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大型装置メーカの業務プロセス改革に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 E社は,焼却炉など環境関連の大型装置の製造を得意とする装置メーカであり,営業部門,工務部門,設計部門,調達部門,製造部門,保守部門の各部門がある。

〔E社の業務プロセスの状況と課題〕
 E社の業務プロセスの状況と課題は次のとおりである。

  • 営業部門は,収集した顧客情報を基に顧客に対して装置の改修工事や新設工事の提案を行っているが,顧客の改修工事や新設工事の時期についての十分な情報を得られず,他社に先行されて失注する場合も多い。顧客の今後の設備投資計画は,装置に関する問合せや改修に対する見積依頼に関係していることが多い。営業部門は,問合せ窓口を一本化することによって顧客情報を効率的に収集できないか検討しているが,各部門に分散している顧客の装置に関する情報を集約するための具体策を策定できていない。
  • 顧客から装置の新設工事を受注した場合は,工務部門は製造番号(以下,製番という)を設定し,製造指図書を発行して,設計部門に装置の設計を依頼する。その依頼を受けて,設計部門は顧客との打合せに基づいて設置する装置の設計を完了させる。
  • 設計完了後は,工務部門は装置を構成する機器ごとに機器番号を採り,どの機器を内製するか,どの機器を外部から調達するかを決める。装置の製番と機器番号の関連付けは,製造指図書に添付している機器の一覧表に記載している。
  • 外部から機器を調達する場合は,工務部門は調達部門に調達要求を出し,調達部門が調達先を選定して注文書を発行する。機器を内製する場合は,工務部門は製造部門に製造を依頼する。機器の調達や製造の状況は機器番号で管理している。
  • 工務部門は,内製する機器の製造日程と外部から調達する機器の納品日程を勘案して顧客への装置の設置日程を策定し,設置工事を行う。
  • 装置の設置が完了し,保守契約が締結され,装置が稼働した後の顧客対応は保守部門へ引き継がれる。しかし,工務部門の設置工事が納期ぎりぎりになる場合が多く,装置の稼働開始時期が変更されることもあり,保守の開始予定日が保守部門に正確に伝えられないこともある。その場合,保守契約の締結が遅れ,E社の保守サービスが提供できず,顧客からの対応依頼にタイムリに応えられないこととなり,顧客からクレームを受ける場合がある。

〔顧客の課題と要望〕
 最近では,多くの顧客が,既存の装置を長期間,継続使用する場合が多い。また,長年保守を担当してきた顧客の保守要員が,定年で退職するケースが増えてきている。その結果,かなり前に設置した装置については,顧客側では,保守を行うために必要な装置の図面や使っている機器の仕様が把握できず,E社の保守部門への装置に関する問合せが多くなっている。
 このような状況から,多くの顧客にとって,故障による装置の停止のリスクをどのように回避するかが大きな課題となっている。その対策として,機器の交換時期を耐用年数よりも短めに設定して,定期保守の時期に合わせて,前倒しで交換するなどのリスク対応策を実施している。E社は,この課題に対応した新しい保守サービスの提案ができれば,収益を拡大できると考えている。
 顧客の事業規模によって保守への対応状況は異なっている。中堅の顧客では,保守に掛けるコストの削減が課題となっており,長年保守を担当してきた保守要員が退職する場合も要員の補充がなく,技術やノウハウの継承が十分にできない場合が多い。その結果,残された保守要員の個々人の努力に依存せざるを得ない状況であり,装置の維持に問題が発生する懸念が高まっている。
 複数の工場をもち,それぞれに保守要員を分散して配置しているような大手の顧客においては,分散している装置の保守状況に関する情報を一元管理できれば,保守要員を有効に活用でき,効率的な保守を行えると考えている。しかし,企業合併で拡大してきた大手企業のような場合,これまで各工場の自主運営に任せてきたので,情報の一元管理をどのように進めればよいかが決められず,問題となっている。
 顧客の中には,このような問題への対応を,保守の技術やノウハウをもち,顧客の保守情報をある程度把握しているE社のような装置メーカに依頼したいと考えている企業も多い。E社としても収益拡大の機会として積極的に対応していきたいと考えている。
 E社は,顧客の工場に他の複数の装置メーカが設置した装置についても,同様の問題が発生していると考えている。顧客に対して,顧客の要求に応える総合的な保守サービスを提供できれば,他の装置メーカが設置した装置についての保守業務を受託することができ,収益の拡大が実現できると考えている。

〔情報技術の活用〕
 近年,機器の情報化が急速に進んでいる。E社が扱う新型の制御機器では,機器内の圧力など運転状況のデータを測定し,その値に応じて自律的に制御する機器が多くなっている。E社は,それらの運転状況のデータを長期間蓄積し,時系列的な変化の状況を分析することによって,装置内の故障発生機器や故障発生時期を予測して,予防的な改修工事を行う新しい保守サービスの提案が可能と考えている。そのような新しい保守サービスの提案を行うためには,E社として必要なシステムを整備する必要がある。また,稼働している機器を,データの蓄積が可能な新型の機器に交換することを納得してもらうために,顧客に対し,新しい保守サービスで得られるメリットを提示する必要があると考えている。

〔E社のアクションプラン〕
 このような状況に対応するために,E社は,今期の事業運営の基本方針を次のとおり策定した。

  • 保守部門に顧客情報を集約し,顧客に対する一本化した問合せ・対応の窓口とする。保守部門は,顧客に対して保守サービスの提供を行うとともに,顧客の問合せや見積依頼の情報の一元的な把握と,設備投資計画につながる情報の収集に努める。保守部門は,E社内での顧客情報の発信の起点として各部門との連携を強化し,現状の業務プロセスの課題を解決する。
  • “保守が最上流”という考えに基づき,様々な顧客の課題に対応した総合的な保守サービスをメニュー化し,新たな受注を獲得する。
  • 情報技術を活用した新しい保守サービスの提案を行うなどの新しいビジネスモデルを導入し,収益の拡大を図る。

 これらの基本方針の下,E社はアクションプラン(以下,APという)を次のとおり設定した。

AP-1:顧客満足度の向上とE社の収益拡大を図るために,顧客情報管理システムの構築によってE社内の情報の連携を強化する。

  • 顧客情報管理システムを,E社各部門を横断した共通の情報基盤として整備する。
  • 保守部門と営業部門の間で情報共有を行い,営業部門が顧客にタイムリな提案を行い,新規案件の獲得を図ることに貢献する。
  • 顧客に対し,タイムリな保守サービスを提供するために,工務部門がもつ情報を保守部門が参照できるようにする。

AP-2:E社の収益拡大を図るために,サービス範囲を拡大する。

  • 顧客の事業規模に応じた適切な保守サービスのメニューを提供する。
  • 保守業務全般をカバーする総合的な保守サービスのメニューを提供し,他の装置メーカが設置した装置についての保守サービスを提供できる体制を整える。

AP-3:顧客に対し,新しい保守サービスで得られるメリットを提示し,新型の機器への交換を積極的に提案していく。

 

設問

設問1

AP-1について,(1)〜(3)に答えよ。

(1)AP-1を実施する上で,現在は分散しているが,共通の情報基盤上に集約すベき情報は何か。15字以内で述べよ。

(2)営業部門がタイムリな提案を行うために,保守部門と営業部門との間で共有すべき情報は何か。30字以内で述べよ。

(3)タイムリな保守サービスを提供するために,保守部門が工務部門から入手すべき情報は何か。15字以内で述べよ。

 

 

解答例

(1)顧客の装置に関する情報

(2)・顧客の今後の設備投資計画
・顧客からの装置に関する問合せや改修に対する見積依頼の内容

(3)装置の稼働開始時期

解説

(1)

(2)

(3)

 

設問2

AP-2について,(1)〜(3)に答えよ。

(1)中堅の顧客に提供すべき保守サービスのメニューはどのような内容か。20字以内で述べよ。

(2)大手の顧客に提供すべき保守サービスのメニューはどのような内容か。25字以内で述べよ。

(3)他の装置メーカの装置を保守するためにE社が顧客から得るべき情報は何か。30字以内で述べよ。

 

 

解答例

(1)技術やノウハウの継承を支援すること

(2)装置の保守状況に関する情報を一元管理すること

(3)他の装置メーカの装置の図面や使っている機器の仕様

解説

(1)

(2)

(3)

 

設問3

AP-3について,(1),(2)に答えよ。

(1)E社が新しい保守サービスを提案するために,必要なシステムの機能は何か。35字以内で述べよ。

(2)E社が顧客に対して新型の機器への交換を納得してもらうために必要な顧客に提示すべき,新しい保守サービスで得られるメリットとは何か。30字以内で述べよ。

 

 

解答例

(1)運転状況のデータを蓄積・分析して故障発生箇所や時期を予測する機能

(2)故障による装置の停止のリスクを回避できること

解説

(1)

(2)

 

IPA公開情報

出題趣旨

 ITストラテジストには,情報技術を活用して業務プロセスを改革し,既存のサービスの付加価値を向上させ,収益拡大に貢献する能力が求められる。
 本問では,装置メーカの業務プロセス改革を題材として,現状の課題から,業務プロセス改革の方針を設定し,アクションプランに落とし込み,新たな業務プロセス,情報システムの設計を企画する能力を評価する。具体的には,現状の業務プロセスの課題抽出能力,課題を構成する要素を特定するための情報分析能力,課題を解決するための問題解決能力を問う。

採点講評

 問3では,大型装置メーカの業務プロセス改革について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
 設問2(1)では,単に“機器の図面を提供する”という解答が多かった。中堅の顧客では,保守要員が退職しても補充がなく,技術やノウハウの継承が十分にできないという状況を理解し,技術やノウハウの継承を支援するサービスが必要とされていることに気付いてほしかった。
 設問3(1)では,“装置の情報を登録する機能”という解答が多かった。E社が新しい保守サービスを提案するためには,“運転状況のデータを長期間蓄積し,時系列的な変化の状況を分析する”機能が必要であることを読み取ってほしかった。
 ITストラテジストは,事業のアクションプランを実現するためのIT活用の提案能力を高めてほしい。